論理記号の定義
論理記号は⊥,→,∃のみであるとし, 論理式φ,ψについて,
¬φ:=φ→⊥,
φ∨ψ:=¬φ→ψ,
φ∧ψ:=¬(φ→¬ψ),
φ↔ψ:=(φ→ψ)∧(ψ→φ),
∀xφ:=¬∃x¬φ.
一階述語論理の証明系H
t,sとそれに添え字を付したものは閉項, xは変数記号, φ,ψ,θを論理式, f∈F,R∈Pとする. 証明系Hの公理とは,次の形をした閉論理式であるか, 次の形をした論理式の全称閉包のことである.
[公理系]
■ 命題論理の公理
(1)φ→ψ→φ,
(2)(φ→ψ→θ)→(φ→ψ)→φ→θ,
(3)¬¬φ→φ,
■ 量化子に関する公理
(4)∀x(φ→ψ)→∀xφ→∀xψ,
(5)∀x¬φ(x)→¬∃xφ(x),
(6)φ(t)→∃xφ(x),
■ 等号公理
(7)t=t,
(8)t=s→s=t,
(9)(t1=t2∧t2=t3)→t1=t3,
(10)(t1=s1∧t2=s2∧⋯∧tn=sn)→f(t1,t2,⋯,tn)=f(s1,s2,⋯,sn),
(11)(t1=s1∧t2=s2∧⋯∧tn=sn)→R(t1,t2,⋯,tn)→R(s1,s2,⋯,sn),
[推論規則]
(MP)φ→ψφψ.
証明の定義
Lを言語, L-閉論理式の集合をΣ, φをL-閉論理式とする.証明系Hにおける言語Lについてのφの証明とはL-閉論理式の有限列,
φ1,φ2,⋯,φn,
でφn=φであり, φi(i=1,2,⋯,n−1)はΣの元であるかHの公理であるかj,k<iなるφj,φkからの推論規則(MP)による結論となっているようなものである.
また,Σからの言語Lについてのφの証明が存在するとき言語LについてφはΣから証明可能といい,Σ⊢φ と表す.特に, Σ=∅のとき単に⊢φと表す.
演繹定義
Lを言語, L-閉論理式の集合をΣとする. このとき,次が成り立つ.
Σ⊢φ→ψ⟺Σ∪{φ}⊢ψ.
(証明)
( ⟹ )
Γ⊢φ→ψかつΓ⊂Γ∪{φ}より,Γ∪{φ}⊢φ→ψが成り立つ.よって,(MP)よりΓ∪{φ}⊢ψ.
( ⟸ )
ψの種類によって場合分けする.
[1] ψ∈Γのとき.Hの公理(1)よりΓ⊢ψ→φ→ψであり,これとψで(MP)を使うことでΓ⊢φ→ψを得る(注:ψ→φ→ψとはψ→(φ→ψ)を表すのであった).
[2] ψがHの公理のとき.Γ⊢ψおよびHの公理(1)よりΓ⊢ψ→φ→ψより(MP)を使えばΓ⊢φ→ψを得る.
[3] ψ≡φのとき. 次の補題4-1で示す.
[4] ψが(MP)の結論になっているとき.Γ∪{φ}からのψの証明の長さに関する帰納法で示す.長さ1の時は[1]~[3]の場合に相当するから示された.証明の長さがnのとき,ある論理式θについてΓ∪{φ}⊢θ→ψおよびΓ∪{φ}⊢θが成り立っているから帰納法の仮定より,Γ⊢φ→θ→ψおよびΓ⊢φ→θを得る. Hの公理(2)より, Γ⊢(φ→θ→ψ)→(φ→θ)→φ→ψが成り立つから(MP)を2回用いることで結論を得る.
□
対偶法
Lを言語, φをL-閉論理式とする. このとき, 次が成り立つ.
⊢φ→φ.
(証明)
θ≡φ→φとすると,
⊢(φ→θ→φ)→(φ→θ)→φ→φ, (公理(2))
⊢φ→θ→φ, (公理(1))
⊢φ→φ→φ, (公理(1))
⊢(φ→θ)→φ→φ, ((MP)による)
⊢φ→φ. ((MP)による)
□
Lを言語, φをL-閉論理式とする. このとき, 次が成り立つ.
⊢φ→¬¬φ.
(証明)
補題3-1より⊢¬φ→¬φが成り立つから,
{¬φ}⊢¬φ, (演繹定理)
{¬φ}⊢φ→⊥, (否定の定義)
{¬φ,φ}⊢⊥, (演繹定理)
{φ}⊢¬φ→⊥,
{φ}⊢¬¬φ,]
⊢φ→¬¬φ.
□
Lを言語, φ,ψをL-閉論理式とする. このとき, 次が成り立つ.
⊢φ→ψ⟺⊢¬ψ→¬φ.
(証明)
(⟹)
⊢φ→ψ,
{φ}⊢ψ, (演繹定理)
⊢ψ→¬¬ψ, (補題3-2(二重否定の付与))
{φ}⊢¬¬ψ, (直前2つで(MP))
{φ,¬ψ}⊢⊥, (演繹定理と否定の定義)
{¬ψ}⊢¬φ, (演繹定理と否定の定義)
⊢¬ψ⊢¬φ. (演繹定理)
(⟸)
上の証明を逆にたどればよい. ただし, 二重否定の付与の代わりに公理(3)二重否定の除去を使用する.
□
健全性定理
Lを言語としΣをL-閉論理式の集合, φをL-閉論理式とする. このとき, 次が成り立つ.
Σ⊢φ⟹Σ⊨φ.
(証明)
証明系Hの公理として採用した論理式φが⊨φを満たすことと, (MP)が{φ,φ→ψ}⊨ψを満たすことによる.
□
参考文献
[1] 新井敏康,数学基礎論 増補版,東京大学出版会,2021.
[2] ケネス・キューネン, キューネン数学基礎論講義, 日本評論社,2016.
[3] 鹿島亮, 現代基礎数学15 数理論理学, 朝倉書店, 2009.
[4] Stephen Cole Kleene, Introduction To Meta-Mathematics, Ishi Press Internal, 1952.
[5] Joseph R. Shoenfield, Mathematical Logic, CRC Press, 1967.
[6] Richard E. Hodel, An Introduction to Mathematical Logic, Dover Publications Inc, 1995.