集合の階数(rank)
ある問題について考えているときに集合の階数について気になったので, 練習ついでに求めてみました.
集合の階数については演習問題になっている本が多く, 正確な証明が載っていませんでした. この機会に正確な証明を与えながら階数を求めて行きたいと思います.
集合の階数(rank):階数の定義
順序数のクラスを\(\mathbb{ON}\)と表します. このとき, \(R\)を定義しましょう.
定義1:
順序数\(\alpha \in \mathbb{ON}\)に対して, \(R(\alpha)\)を超限再帰によって次のように定める.
(1) \(R(0) = 0\),
(2) \(R(\alpha + 1) = \mathcal{P}(R(\alpha))\),
(3) \(\alpha\)が極限順序数のとき, \(R(\alpha) = \bigcup_{\beta < \alpha} R(\beta)\).
ここでは詳しく述べませんがZF集合論では基礎の公理によっていずれかの\(R(\alpha)\)に属している集合しか扱いません. すなわち,
\(\mathbb{WF} = \bigcup \{R(\alpha) : \alpha \in \mathbb{ON}\}\),
と定めたときに\(\mathbb{WF}\)に属する集合しか考えません.
集合の階数とは簡単に言えばこの\(\mathbb{WF}\)においてどの階層で現れるかを表したものになります.
定義2(階数):
集合\(x \in \mathbb{WF}\)について\(x \in R(\alpha + 1)\)となる最小の順序数\(\alpha \in \mathbb{ON}\)を\(x\)の階数またはランクといい,
\begin{align}
\mathrm{rank} (x) = \alpha,
\end{align}
と表す.
以下では\(R(\alpha)\)が推移的であることは断りなく用います. 推移性に関する証明が気になる方はぜひ参考文献をご覧ください.
集合の階数(rank):基本的な集合の階数
\(x, y\)を集合としたときに, \(\{x\}\), \(\{x, y\}\), \(\langle x, y \rangle\), \(x \cup y\), \(\bigcup x\), \(x \times y\)の階数を求めてみます.
集合の階数を求める際の基本的な補題
階数を求める上で便利ないくつかの補題を準備しておきます.
補題1:
\(\alpha \in \mathbb{ON}\)について, \(x \in R(\alpha)\)が成り立つことと\(\mathrm{rank}(x) < \alpha\)が成り立つことは同値.
\(\alpha \in \mathbb{ON}\)とすると,
\begin{align}
x \in R(\alpha) &\iff \exists \beta < \alpha (x \in R(\beta + 1)), \\
&\iff \exists \beta < \alpha (\mathrm{rank} (x) = \beta),
\end{align}
が成り立つ.
最右辺は\(\mathrm{rank} (x) < \alpha\)と同値である.
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補題2:
\begin{align}
x \in y \Longrightarrow \mathrm{rank} (x) < \mathrm{rank} (y).
\end{align}
\(x \in y\)とする. \(\alpha = \mathrm{rank}(y)\)と表すことにすると, \(y \subset R(\alpha)\)より\(x \in R(\alpha)\)が成り立つ. 補題1より,
\begin{align}
x \in R(\alpha) \Longrightarrow \mathrm{rank} (x) < \alpha,
\end{align}
であるから\(\mathrm{rank} (x) < \mathrm{rank} (y)\).
□
補題3:
\(\alpha \in \mathbb{ON}\)について,
\begin{align}
\alpha < \mathrm{rank} (x) \iff \exists y \in x (\alpha \leq \mathrm{rank} (y)).
\end{align}
(\(\Longrightarrow\))
対偶を示す. \(\forall y \in x (\alpha > \mathrm{rank} (y))\)であるとしよう. このとき, 任意の\(y \in x\)について\(y \in R(\alpha)\)が成り立つから\(x \subset R(\alpha)\)が成り立つ. よって, \(x \in R(\alpha + 1)\)となるから階数の最小性より\(\mathrm{rank} (x) \leq \alpha\)を得る.
(\(\Longleftarrow\))
\(\alpha \leq \mathrm{rank} (y)\)を満たす\(y \in x\)について補題2より\(\mathrm{rank} (y) < \mathrm{rank} (x)\)が成り立つから\(\alpha < \mathrm{rank} (x)\)を得る.
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補題3は階数の下からの評価を得るときにとても便利です.
集合の階数:\(\{x\}\)
命題4:
\begin{align}
\mathrm{rank} (\{x\}) = \mathrm{rank} (x) + 1.
\end{align}
\(\alpha = \mathrm{rank} (x)\)とすると, \(x \in R(\alpha + 1)\)が成り立つ. これより\(\{x\} \subset R(\alpha + 1)\)が成り立つから\(\{x\} \in R(\alpha + 2)\)となる. したがって, \(\mathrm{rank} (\{x\}) \leq \alpha + 1\)となる.
さらに\(x \in \{x\}\)より\(\alpha < \mathrm{rank} (\{x\})\)が成り立つ(補題2). よって, \(\mathrm{rank} (\{x\}) = \alpha + 1\)でなくてはならない.
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集合の階数:\(\{x, y\}\)
命題5:
\begin{align}
\mathrm{rank} (\{x, y\}) = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y)) + 1.
\end{align}
\(\alpha = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y))\)とおくと, \(x, y \in R(\alpha + 1)\)となるから\(\{x, y\} \subset R(\alpha + 1)\). よって, \(\{x, y\} \in R(\alpha + 2)\)が成り立ち\(\mathrm{rank} (\{x, y\}) \leq \alpha + 1\)を得る.
一方, \(x, y \in \{x, y\}\)より, \(\alpha < \mathrm{rank} (\{x, y\})\)となる(補題2). これより\(\mathrm{rank} (\{x, y\}) = \alpha + 1\)でなくてはならない.
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集合の階数:\(\langle x, y\rangle\)
命題6:
\begin{align}
\mathrm{rank} (\langle x, y\rangle) = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y)) + 2.
\end{align}
命題4より\(\mathrm{rank} (\{x, z\}) = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (z)) + 1\). ここで\(z = \{x, y\}\)とすると,
\begin{align}
\mathrm{rank} (\langle x, y\rangle) &= \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (\{x, y\})) + 1, \\
&= \mathrm{rank} (\{x, y\}) + 1,\\
&= \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y))+ 2,
\end{align}
を得る.
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集合の階数:\(x \cup y\)
命題7:
\begin{align}
\mathrm{rank} (x \cup y) = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y)).
\end{align}
\(\alpha = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y))\)とすると, 任意の\(z \in x \cup y\)について\(z \in R(\alpha)\)となるから\(x \cup y \subset R(\alpha)\)を得る. よって, \(x \cup y \in R(\alpha + 1)\)より\(\mathrm{rank} (x \cup y) \leq \alpha\).
ここで, \(\mathrm{rank} (x) > \mathrm{rank} (y)\)として一般性を失わない. このとき, \(\alpha = \mathrm{rank} (x)\)となる. 任意の\(z \in x\)について\(z \in x \cup y\)であるから,
\begin{align}
\forall z \in x (\mathrm{rank} (z) < \mathrm{rank} (x \cup y)),
\end{align}
を得る. 補題3の対偶を考えるとこれは\(\mathrm{rank} (x) \leq \mathrm{rank} (x \cup y)\)と同値.
以上より, \(\alpha \leq \mathrm{rank} (x \cup y) \leq \alpha\)となり, \(\mathrm{rank} (x \cup y) = \alpha\)を得る.
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集合の階数:\(\bigcup x\)
命題8:
\begin{align}
\mathrm{rank} (\bigcup x) = \left\{
\begin{array}{ll}
\mathrm{rank} (x) – 1 & (\mathrm{rank} (x) \text{が後続型順序数のとき}), \\
\mathrm{rank} (x) & (\mathrm{rank} (x) \text{が極限順序数のとき}).
\end{array}
\right.
\end{align}
(1)\(\mathrm{rank} (x)\)が後続型順序数のとき
\(\alpha=\mathrm{rank}(x)\)とすると\(x \in R(\alpha + 1)\)より\(x \subset R(\alpha)\)が成り立つから, 任意の\(y \in x\)について\(y \in R(\alpha)\)となる. 同様に任意の\(y \in x\), \(z \in y\)について, \(z \in R(\alpha – 1)\)が成り立つ. これより, \(\bigcup x \subset R(\alpha – 1)\)より\(\bigcup x \in R(\alpha)\). すなわち, \(\mathrm{rank} (\bigcup x) \leq \alpha – 1\).
一方, \(\beta < \alpha - 1\)とすると補題3を2度用いることによってある\(y \in x\)と\(z \in y\)について\(\beta \leq \mathrm{rank} (z)\)が成り立つ. このとき, \(z \in \bigcup x\)より,
\begin{align}
\beta \leq \mathrm{rank}(z) < \mathrm{rank} (\bigcup x) \leq \alpha - 1,
\end{align}
を得る. \(\beta < \alpha - 1\)は任意でよかったから\(\mathrm{rank} (\bigcup x) = \alpha - 1\)でなくてはならない.
(2)\(\mathrm{rank} (x)\)が極限順序数のとき
\(\alpha=\mathrm{rank}(x)\)とすると\(R(\alpha)\)の推移性より, 任意の\(y \in x\)について\(y \in R(\alpha)\)かつ任意の\(z \in y\)について\(z \in R(\alpha)\)が成り立つから,
\begin{align}
\bigcup x &\subset R(\alpha), \\
\therefore \bigcup x &\in R(\alpha + 1),
\end{align}
より\(\mathrm{rank} (\bigcup x) \leq \alpha\)となる.
一方, \(\beta < \alpha\)とすると, \(\alpha\)は極限順序数だから, \(\beta < \gamma < \alpha\)なる\(\gamma \in \mathbb{ON}\)が存在する. この\(\gamma\)に対してある\(y \in x\)が存在して\(\gamma \leq \mathrm{rank}(y)\)となる(補題3). また, \(\beta < \mathrm{rank} (y)\)よりある\(z \in y\)が存在して\(\beta \leq \mathrm{rank} (z)\)となる.
よって,
\begin{align}
\beta \leq \mathrm{rank} (z) < \mathrm{rank} (\bigcup x) \leq \alpha,
\end{align}
より, \(\beta < \alpha\)は任意でよかったから\(\mathrm{rank} (\bigcup x) = \alpha\)でなくてはならない.
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集合の階数:\(x \times y\)
命題9:
\(\alpha = \mathrm{max} (\mathrm{rank} (x), \mathrm{rank} (y))\)とする.
\begin{align}
\mathrm{rank} (x \times y) = \left\{
\begin{array}{ll}
\alpha + 2 & (\alpha \text{が後続型順序数のとき}), \\
\alpha & (\alpha \text{が極限順序数のとき}).
\end{array}
\right.
\end{align}
以下, \(\mathrm{rank} (x) > \mathrm{rank} (y)\)として一般性を失わない. すなわち, 以降\(\alpha = \mathrm{rank} (x)\).
(1)\(\alpha\)が後続型順序数のとき
ある\(z \in x\)が存在して\(\alpha – 1 \leq \mathrm{rank} (z)\)を満たすものが存在する(補題3). \(z \in x\)より\(\mathrm{rank} (z) < \alpha\) でなくてはならないから, 結局\(\mathrm{rank} (z) = \alpha - 1\)となる. この\(z\)に対して, 任意の\(b \in y\)について\(\mathrm{rank} (\langle z, b\rangle) = \alpha + 1\)となるから, 任意の\(\langle a, b\rangle \in x \times y\)について\(\mathrm{rank} (\langle a, b\rangle) \leq \mathrm{rank} (\langle z, b\rangle) = \alpha + 1\)が成り立つ. よって,
\begin{align}
\langle a, b\rangle &\in R(\alpha + 2),\\
\therefore x \times y &\subset R(\alpha + 2),\\
\therefore x \times y &\in R(\alpha + 3).
\end{align}
すなわち, \( \mathrm{rank} (x \times y) \leq \alpha + 2 \).
一方, \(\langle z, b\rangle \in x \times y\)より, \(\mathrm{rank} (\langle z, b\rangle) = \alpha + 1 < \mathrm{rank} (x \times y)\)であるから \(\mathrm{rank} (x \times y)= \alpha + 2\)でなくてはならない.
(2)\(\alpha\)が極限順序数のとき
任意の\(a \in x\), \(b \in y\)について, \(\mathrm{rank} (a), \mathrm{rank} (b) < \alpha\)となるから,
\begin{align}
\langle a, b\rangle &\in R(\alpha),\\
\therefore x \times y &\subset R(\alpha),\\
\therefore x \times y &\in R(\alpha + 1),
\end{align}
が成り立つ. これより, \(\mathrm{rank} (x \times y) \leq \alpha\).
また, \(\beta < \alpha\)なる\(\beta \in \mathbb{ON}\)を任意にとると, 補題3よりある\(z \in x\)が存在して\(\beta \leq \mathrm{rank} (z)\)となる. このとき, 任意の\(\beta \in y\)について,
\begin{align}
\beta \leq \mathrm{rank} (\langle z, b\rangle) < \mathrm{rank} (x \times y),
\end{align}
となる. \(\beta < \alpha\)は任意でよかったから\( \mathrm{rank} (x \times y) = \alpha \)でなくてはならない.
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参考文献
[1] ケネス・キューネン, 集合論, 日本評論社,2008.